灯台守のパン

この先は灯台守の眠る部屋 無口な者がパンを届けよ

毛皮のコートに包まれて/『ハスラーズ』

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ハスラーズ(2019年 アメリカ)
監督:ローリーン・スカファリア

 

 “搾取される”側が“搾取する”側を騙して荒稼ぎした過去と、デスティニー(コンスタンス・ウー)がインタビューに応じる現在が行き来する。
 女子刑務所を舞台にしたドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(2013~2019)は、キャラクターに対し、彼女たちが受刑者である前に──あるいは受刑者であると同時に──何者であるかを繊細に掘り下げているが、本作もそれに近い試みを感じた。現在のデスティニーがインタビュアーに「あの頃は何も不正はしていなかった」と語るシーンにより、観る側は、彼女たちがこれから何らかの違法行為に手を染めることを暗に予告されるわけだが、本作は彼女たちの犯罪の一部始終を描きつつ、ストリッパーひとりひとりの人生にさりげなくフォーカスを当てている。
 彼女たちが何者であるか。どんな家族やパートナーがいて、どんな悩みがあり、どんな願いがあるのか。
 デスティニーやラモーナ(ジェニファー・ロペス)は、セックスワーカーステレオタイプな描き方から丁寧に救い出されている。ポールダンスや客のもてなし方のレッスンシーンは、彼女たちが“気ままにセクシーに振る舞っている”のでは決してなく、熱心に練習した末にテクニックを習得していることを提示する。


  何とも言えずすばらしいのは、屋上でタバコを吸うラモーナが、そこにやってきた薄着のデスティニーを毛皮のコートごと包み込むシーンだ。当時のデスティニーはまだ新人で、対するラモーナはトップストリッパーである。コートは置いてきたと言う彼女に、ラモーナは自身がまとう毛皮のコートを大きく開いて「この毛皮に入りな」と言うのだ。そのしぐさの圧倒的なゴージャスさと優しさは、デスティニーを通じて、観る側の心までもしっかりと温める。
 本作には、たとえば『オーシャンズ8』(2018年)のような突き抜けた爽快さはない。“搾取する側”への小気味よい復讐劇としては完全でなく、デスティニーとラモーナの仲は、彼女たちの犯罪組織が危うくなるにつれて陰りはじめる。
 しかし、ふたりの間の糸は途切れない。連絡こそ取っていないが、離れながらも互いを思いやっていることを示して幕を閉じる。格差社会への批判精神に富んだ物語であると同時に、連帯と友情の物語なのだ。